茉莉花の少女
 女は僕の手を引っ張る。本来なら振り払っても可笑しくない。

 知らない女にこうやって手を引っ張られているわけだから。

 でも、そこである考えが頭を過ぎる。

 このままこの変な女についていけば、この忌まわしい場所から逃げられるのではないかということだ。

 見たところ、彼女は細身で、筋肉どころか贅肉さえ十分についていない。 

 何かあってもこの程度の女はすぐに振り払える。

 そう考えると答えは決まる。

「茉莉先輩?」

 そう言ったのは隣に座っている三田宣夫だった。

 三田の知り合いなのか?

 一瞬、そう思ったが、ここで逃げるチャンスを見逃しては困る。

 僕は彼女の手をつかむ。

「悪いな。じゃ、帰るよ」
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