茉莉花の少女
 彼は何かを思い出したように振り向いた。

「朝は一緒に来なかったのか?」

「あいつの家、知らないし。わざわざ迎えに行くこともないだろう」

 そのとき思い出したのは登下校と言った彼女の言葉。

 下校は学校から家に帰ることだ。

 登校は……。

 そう考えて、嫌な予感がした。

「何でそう思ったわけ?」

 奈良に尋ねた。

「茉莉先輩が重そうな荷物を持って交差点をうろうろしているのを見たから。

信号が変わっても渡らないし、お前を待っているのかと思った」


 そのとき思い出したのが昨日聞き流した言葉だった。

 うろ覚えではっきり聞いたわけでもないが、待ち合わせとか交差点とか言っていたような気がする。

 まさかな。

 時間は補習開始の七分前だった。

「お前、何で手を貸さなかったんだよ」

と三田。

「別に関係ないし」

 そう奈良はあっさりと答える。

 彼もこんなやつだった。

 しかし、彼女は僕の常識なんか通じる相手じゃないことくらい分かっていた。

「お前、行ったほうがいいんじゃない?」
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