茉莉花の少女
 そのとき、遊び心が心の中にわいてくる。

 後から考えればばからしい考えだ。

「茉莉先輩」

 茶色のクセのある毛が揺れた。

 彼女は振り返ると、目を見開いた。

 何で名前で言ったら気づくんだ。

「ごめん。ちょっと夢中になっていて」

 彼女は手に握っていた葉っぱを花壇の中に置く。

 何をしているのか気になったが、その葉を持っている状態を見て、その理由を知りたくないと思ってしまっていた。

「あのね」

「気にならないから何も言わなくていいですから」

「植物の観察をしていたの。ここに新芽が出ていたから何の花なのかなって」

 聞いてないのに全てを語ってしまった。

 それもよく意味が分からないことをしている。

 その観察になぜ葉が必要なのかさっぱりわからない。

「荷物はどうしたんですか?」

 彼女は自らの手を見て、我に返ったような仕草をした。

 荷物のことを忘れていたのだろう。

 頭が痛い。

「あった」

 彼女が指差したのは少し先にある、ベンチだった。

 確かにそこには学校指定の鞄が置いてある。
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