茉莉花の少女
 この女は三田と僕を間違い、僕の手をつかんだんだろう。


 だが、本当のことを話させるわけにもいかない。

 彼女の腕をつかむと、引っ張るようにして、人の間を潜り抜ける。

 少々の抵抗は予想していたが、彼女は抵抗どころか腕を動かすことさえしなかった。

 彼女を連れたまま、店の外に出ると、息を吐く。

 後は家に帰ればいい。

 そう思ったとき、凛とした声が響く。

「ちょっと、手が痛いんだけど」

 背後から聞こえてきた声。

 振り返ると、あの女が不機嫌そうな顔をしていた。

「ああ、悪い」

 その女の手を解放する。
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