茉莉花の少女
「あんたが人違いをしてくれて助かったよ。じゃあな」

 そう言って去っていこうとした僕の手をつかむ。

「人違いってなによ。わたしはあなたに用があるのよ。藤木久司君」

「何で人のフルネーム知ってんだよ」

「何ででしょう」

 彼女は口角を挙げて微笑んだ。自信たっぷりの絶対に見破られないとでも言いたそうな笑みだ。

 嫌な女だ。

「お前は三田の知り合いなんだろう? 僕に用があるのか?」

「三田?」

「隣に座っていた男」

「隣の男? 知ってはいるけど、用事はないよ」

 なんとなくそこまでの会話でこの女が変で嫌な女だとは分かった。

 こういう女とは係わり合いにならないのが一番だ。
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