茉莉花の少女
 彼女の耳に当てられていた携帯が離れた。

 彼女は早足で、僕のもとに駆け寄ってきた。

 そして、悲しみを帯びた瞳のまま笑う。

 いつも幸せそうに笑う彼女の寂しそうな笑みが、ここまで僕を悲しい気持ちにさせるとは思わなかった。

「なにかあったんですか?」

「久司君が寂しそうだから」

「何言って」

「でも、会えたからうれしい」

 彼女は僕の手にそっと触れた。

 その手は優しくて、何かに包まれたそんな気持ちになったのだ。

「どうしてここに?」
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