言葉にできない。
「君、誰かの連れ?」
不意に声をかけられて顔を上げる。
「あ、あの…」
「見慣れない子だね、編集じゃなければ作家でもなさそうだし。
誰と来たの?」
かなり年配の男性から諭されるように尋ねられ、答えに詰まってしまう。
「ひとり、ってわけじゃないんだろ?どうしたんだい、こんなに可愛い子が壁際で立ってるなんて。」
そう言ってその男性は千鳥に近付く。
一歩、近付く度に千鳥の心は壊れていくような錯覚に囚われていた。
’’怖い’’
人を好きになって母の様に心を壊していく’’恐怖’’とは全く異なる’’恐怖’’だった。