学芸員の憂鬱
十二天将
翌日、尽の授業が終わる時間に合わせ、
川の畔に座った雨衣が、ぼんやりと水面を見ていた。
申し合わせたかの様に一定の距離を保ち、川原に座る人々の中で一人なのは雨衣だけなので、水面を見つめる事で、それを極力見ない様にする為である。
(なんで…ここを待ち合わせ場所に選ぶかな…)
左右に目を向けれず視線を上げると劇場が見え、橋の袂からは路上ライブの歌声が聞こえる。
「雨衣…ごめん!」
少しだけ頬を高揚させた尽の姿が見えた。
「… …」
無言で雨衣は立ち上がる。
「お兄さんが、お姉さんの待ち合わせの人?しばらく一人で待ってはったよ?」
雨衣の右に座っていたカップルが尽に話かける。
「学校が終わるの遅くなってしまって…」
「それは私達やなくて、お姉さんに言わな…」
「そうですよね…あ…雨衣…じゃあ…失礼します」
既に歩き出した雨衣を追いかける。
「お店とかでも…待ち合わせ出来たん違う?」
「あんな川原でも水辺だと鼻が利くんだよ…」
確かにいつも尽は大まかな待ち合わせ場所をからでも雨衣を見つけ出す。
「次からお店で待ち合わせじゃダメ?」
「なんか…トゲトゲしてて嫌なんだよ…色も暗くて…」
「トゲトゲ?って…匂いが?」
「うん…色も見える時がある…」
「色?それ…共感覚?」
「そう言う人も居るけど…俺は数字や音には感じないし…雨衣は薄い藤色で、侘助さんは渋茶」
やっと話しかけてくれた雨衣に嬉しそうな笑顔を見せる。
「オーラじゃないの?」
「オーラじゃないと思う…だって人以外でも感じる…ま、藤色を感じたのは自分の護刀と、飼ってた犬と、雨衣だけだけどね…あ、ここなら人気も少ないから」
キョロキョロと見渡す尽に雨衣はカバンからジップ付きの袋を二つ取り出す。
「私はペットや宝刀と同じ?」
「違う、違う…好きなモノは藤色。上手く言えないけど紫色じゃなくて本当に綺麗な藤色なんだよ」
雨衣の首筋に顔を近づけ犬の様に匂いを嗅いで耳元で言う。
「な…」
顔を赤らめた雨衣が尽から逃れる。
「今のは中和ね…嗅覚をシャープにしなきゃ…それ…どっち?」
袋に手を伸ばす。