羽の音に、ぼくは瞳をふせる

彼女の声1-12

< 彼女の声 >1-12


あの雨の夜から
奏さんには会えていない


最後に泣き崩れた
彼の姿を思い出せば
まずは・・羽音よりも

兄である奏さんに会うことが
先になると考えた


パソコンに向い
電車で療養所への行き方を調べる


「 約・・2時間半か・・」


小さめのボストンバックを
肩から掛けると
そのまま新宿駅に向い

あずさに残りこんだ
平日にも関わらず
年末のせわしい季節のせいか


自由席は意外に混みあっていた
老夫婦の前に空いている席があり
一言だけ断りを入れると

前に腰かけ
流れるように代わる
その景色を見ていた

この景色を奏さんも
見ていたのだろうか?

まだ雪は降っておらず
紅葉が残る山間は
とても美しく
自然には出せない色だと関心し
ただ、眺めていた


「 はい、これ 」


「 あ・・ 」


声のする方を見れば
女性の方がオレに何かをくれようとして


手に置かれた物を確かめると
茶色のキャラメルが懐かしい白の
透ける包み紙に包まれており

開ければ、ほんの少しだけ
甘い香りが漂う

なんだか、不思議で愛おしい香り


「 ありがとうございます 」


その場で、例を言うと
口に放り込んだ、すぐに口内に
甘い香りがし舌触りが
少しだけ歯に染みて

歯医者に行っていないことを
思い出す


「 何かあれば、甘い物を食べなさい
すると頭の回転が良くなって
小さなことでは悩まなくなるわよ 」


隣の老人が

「 これ、彼は何も言ってないのだから
そんな風に決め付けてはイカン 」


「 あら、そうかしら?
なんだか・・この世の終わり~って

顔に見えたわよ、、あれじゃ 」


「 すみませんな、うちの家内は
これが無ければ最高なんじゃが 」

言葉をオレにくれると

その夫婦は仲、睦まじく
見つめ合い再び笑っていられる


人は、生涯にどれだけの人を
心の底から好きになるのだろう
そして、それは永遠なのだろうか?

愛しい髪の香りが
オレの前で流れて行き

羽音がすぐそばに居るような気がした

その時
携帯電話のバイブ機能が震えだし
自分のデニムの後ろで着信を告げる

「 すみません 」


そう言って席を立てば
通路の電話可能な場所に向い
着信を押した


「 もしもし?」


「 今、どこ? 」


「 別に電車に乗ってるだけだよ 」


彼女の声が聞こえてきた













 



< 12 / 14 >

この作品をシェア

pagetop