羽の音に、ぼくは瞳をふせる
古書と彼女1-2
< 古書と彼女>1-2
ふり返ったきみに
その本を渡す
オレの言葉を
何度も確認するように
瞼が上下にまばたきを繰り返す
「 ・・・・ あげる 」
「 え・・・?」
「 だから、それあげる 」
「 えっつ・・でも
これきみのだし 」
オレを見つめる真っ黒な瞳
「 じゃあ・・返して捨てるから 」
想像よりも高い声に
驚きながら少しイントネーションの高めの
可愛い声に微笑が口元にうかぶ
「 なんで、笑ってるの? 」
怒ってる顔、初めてみた
まぁそうかいつも通り過ぎる、横顔しか
見ていなかったから
「 ねぇ、きみは同じ大学の子? 」
この並木道をまっすぐ行けば
オレが通う大学へと続いている
その道をいつもすれ違う彼女
「 あなたは気楽な身分なんだ? 」
はぁ?突然だされる
突拍子もない言葉ばかり
「 わたしは・・同じ大学だけど
通信学科へ通っているの 」
今週だけは足りない単位を埋めるために
バイトを休んで特別講習を受けている
だから、この道もしばらく通らない
通学に時間がかかるから
その本を古本屋でみつけて 持ち歩いていたけれどもう要らないの
だからあげる・・もしいらないなら
捨ててじゃあね 」
黒髪を揺らして行ってしまった
変わってて面白い子だな・・
彼女の姿
そしてその姿に恋をしていた
しかし実際に話してみた彼女は
よりリアルで現実味のある女の子だった
渡され託された本を持ったまま
その重みを感じて持ち上げると
しおりを挟んだ部分が開かれた
そこには小さなカードが1枚
きっとカバンに入ってるうちに
知らぬ間に挟まったのだろう
図書館のカードか・・・
あれって再発行するの
結構手間かかるんだよな
オレは大学の授業を終えてから
そのカードが利用できる
図書館を訪れた
車窓から過ぎ行くホームを
何度か通過して
目的地の場所へと向かう
図書館の受付で
事情を説明すると快く引き取ってもらえた
しかし・・
届け出た人間の確認もさせてもらいたい
係りの人間は届けの出のあった日付と
オレの名前、電話番号をきく
「 御苦労様です 」
無表情でそう応えると
そのカードをファイリングされ
引き出しにしまいこんだ
それから数日雨がつづき
大切な授業がない曜日に関しては
家でダラダラと過ごすことに
毎日、彼女を見つめていた日々よりも
彼女と喋ったあの日のことだけを
ベッドに横になりながら
あの横顔を思い反芻する
黒い髪すこしだけとがった小さな顎
話す前よりも
ずっと彼女のことを考えている
瞳に恋をする
そんな事があるなんて思わなかった
もう会うことは出来ないのだろうか
あの白いワンピースが揺れる後姿を
そしてオレをみつめるその視線を
もう一度うけとめて君に
話しかけてみたいって願っている
その時・・携帯が鳴り響く
表示された番号は登録のないもので
オレはそっと耳元にそれを押し当てて
「 わたしのこと覚えてる? 」
あぁ・・あの声だ
ずっと会いたいそう願っていた
あの彼女だ・・・
「 うん 図書館で聞いたの? 」
「 そう・・バイト中に
図書館から留守番電話が
入ってて帰りにとりに行ったら
男性がって 」
あぁ・・あの時のあなたかも・・
そう思ってお礼をしたいからって
言っても個人情報だからって
教えてくれないからね
図書館の中でしか読めない
蔵本の申請をして係員が
席を離れた瞬間
身をのりだして
その預かり書ファイルから
あなたの名前と番号を
盗み見してしまったの
「 ねぇ、出ておいでよ
どうせ暇なんでしょ? 」
いや・・べつに暇じゃあ・・
そう言うけど気持ちは
向かう気で溢れていた
「 お礼がしたいから
ちょっとご飯でも行こうよ 」
オレは待ち合わせ場所を聞くと
玄関の鍵と 上着を手にとり
部屋をあとにした