羽の音に、ぼくは瞳をふせる

彼女の名は・・1-3


< 彼女の名は・・>1-3

まさか・・・
本当にもう一度、会えるなんて
夕方まで降り続いていた
雨は外に出ると止んでいた

待ち合わせは
人通りの多い
駅の前

普通ならこれを
なんというのだろう

誰かに間違えられて
恋人だと思われたらいいのに


ただ・・一方的に
きみに恋してるのだと
何もしらないきみに

黒い髪を揺らしながら
歩く君は砂糖菓子のよう

甘い匂いに
オレは引き寄せられて
気がつけば罠の中

人通りの中、もう着く頃かな時計と
交互に流れる人を見ていた
すると後ろから声がする

「 待った?・・」

見なくても声の主は分っていた

「 ううん・・いや、少しだけかな」

謝りもせず
彼女は着いて来いとでも
言うように

オレの前を歩いてゆく
あぁ・、この後ろ姿が好きだったんだ

少し右脚を引きずり
歩くような感覚を受けるけど
それも、よく注意して見なければ
分らない


そのまま、きみの髪を
見つめていれば


突然、立ち止まるから
その背中にぶつかった

振り向くと
そこには、いぶかしげに
オレを見る瞳


「 ねぇ、ちゃんと目・・あんの?」

すごい事、言ってくるけど
それも何か素直で憎めない


「 ここでいい?ここ入ろ」

見上げると
何の店かわかんねぇ
雑居ビルの階段を
互いに低いスニーカーで
音もたてずに

上がって行く

ドアを開ければ
なんだ・・・この店


こんな店、初めて来た
ひとつのテーブルごとに
インド綿の布がかけられ
まるでテントのような作り

オレたちは異国にいるような
そんな空間に2人
黒い服を着た従業員が注文を聞きに
来たけれど

オレは全然わからなくて
彼女に全部まかせた


「 ここ、よく来んの?
なんか・・変わってるね」


「 ん?そう・・初めてだけど」


初めてかよ・・・
なんだよ、大抵の場合
食事運がなくて
大型チェーン系の店に行く事が多い

冒険して良いことがないからだ
けれど出てきた食事を見れば
男のオレでも少し胸が躍る

どうやって・・食うんだ?
すると彼女は右手を銀の水の入った
ボールで洗うと
そっと手ですくって食べる

すごく楽しそうに食べるから
オレもって同じように
食べると普段・・箸やスプーンを使う
感触とは全く異なるから不思議で

食べることに
微笑む彼女が可愛い


「 で・・名前は?」


「 え・・?」


「 ないの?名前」


「 あ・・翔・・」


「 ふぅん・・そうなんだ
羊が飛ぶんだね・・なんか面白い」


思わず聞き返す


「 じゃあ、きみは?」


「 わたし?聞きたい?」


「 うん、ききたい」


「 はのん・・」


「 は・・のん?」


「 そう、なにか?」



「 ううん・・可愛いなって
どんな字・・書くの?」


「 羽の音って書いて、はのん
あまり無いから・・いつも聞き返されるの」


そうなんだ・・
けれど、その名前は本当に
彼女に合っていて
まるで彼女の為に存在するような

そんな・・音のある名前

どうか
この恋が上手く行きますように
オレは・・秘かにそう想い始めていた
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