羽の音に、ぼくは瞳をふせる

涙が見えた・・1-8

< 涙が見えた >1-8


「 あのね奏がね

翔くんに会いたいから
大学まで行ってみようって

いつも取ってる講義が
あるって日程表見てみたら

あったから
2人で散歩がてら
迎えにきたの

今日はこれからバイト?」

秋の葉が
羽音とオレの間に
舞い落ちてくる

その光景を息をするのを忘れて
見つめていた


「 翔くん、
メシでも行かないかな?

オレ達兄弟と
一緒で良かったら」


その日は朝のうちに
バイトへ行ってからの大学だったし
予定は入っていない

オレは奏さんの体調も気になったけれど
それよりも一度しか会っていないオレを
気にかけてくれて

誘ってくれた。
その気持ちが嬉しかった


「 オレ、今日はもうバイトないんで
ぜひ一緒させてください」


あの日、見せた涙なんか
まるで無かったように
奏さんとオレの間で楽しげに話す羽音

本当の気持ちを知りたくて
その横顔を眺めていた

すると前にあった電柱に気付かず
思い切りぶつかる


「 いてぇ・・・」


「 翔くん、大丈夫!?」


オレの額に手を添えると
かかる髪をゆっくりずらし
赤くなっていると思われる場所を
心配そうに見ている

オレは、その時・・見てしまう
羽音の後ろで切なげに
2人を見つめる瞳を

それが、どういうものなのか
オレには理解できなくて
羽音の指を 大丈夫だから

そう言って
手でさえぎると
もう奏さんは違う場所を見ていた

その後
元気な声が響く居酒屋に
少し早めに入り3人で他愛のない話をし
遅くまで盛り上がった

奏さんは少しだけとビールを飲み
羽音とオレは同じ日本酒に梅の入った
湯わり

身体が温かくなり
会話も弾む


店内が会社帰りのサラリーマンやOLで
賑わいをみせてくる

その角で
オレ達は、叶うか分らないような
未来の夢をかなり始めた

「 翔くんは何がしたいの将来?」


羽音が酒を片手にオレに聞いてくる

オレは・・出来れば世界をまわってみたい
でも、仕事にすれば愛しい人たちと
会えない時間が増えるの・・あるし
羽音と出会ってからは

その夢が一番では無くなった


「 オレは趣味で良いから
できるだけ、色んな場所へ・・

旅してみたいです」


「 私はね・・そうだなぁ

普通にお母さんになりたい
働くのもいいけど、おかえりって
言ってあげれる・・・お母さんに」


その夢を叶えてあげたい
隣の席で、自分の将来さえ決まらない
オレは何も言い出せなかった


「 奏さんの夢はなんですか?」


オレは話の流れで
何気なく、話をふってしまった自分に
次の瞬間とても後悔した


「 オレは・・今が未来になりつつ
あるんじゃないかなって・・

最近よく思うよ」


え・・・


「 けど・・オレ達と5歳しか年齢も
変わらないし

これからじゃないですか?」


「 ごめんな羽音が酔って
変な方向に持って行ったね

オレは自分の命が
どこまで行くか・・それが

未来になってきてる」



羽音が酔いながら
奏さんの肩にもたれかかる

確かに奏さんの病状が
あまり良くないと


しばらくして
羽音が寝息を立て出した
オレは羽音を背中に乗せると
奏さんと車の走る大通りまで
歩いてゆく


「 羽音・・さ、結構無理してて

それをさせてるのも自分なんだよな」


背中に温かみを感じながら
その重みに幸せを感じる

その温かさをいつまでも
感じていたいと

オレは思っていた


「 翔くんは、羽音を想ってくれてるよね?」

後ろからの寝息を聞きながら
オレは奏さんを見た


「 羽音には幸せになってもらいたい」


「 はい・・・」


夜の風が身体を冷やすから
羽音が風邪をひかないか心配になる


「 けれど・・羽音はオレの病気が
自分のせいだと思ってるんだ」


え・・・言葉を失う
それは・・

理由を聞こうとした時
奏さんが走ってきたタクシーを拾う

「 今度、2人でゆっくり話そう」

背負っていた羽音をタクシーを座らせて
その後、奏さんが乗り込んだ

ドアが閉まる前に
羽音の頬に涙が見えた気がした
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