愛を知らないあなたに
ここは、あたしが羨望の眼差しを薺さんに向ける場面じゃないの?


訳がわからず目を瞬いていると、薺さんはふ、と微笑し、するりと琥珀様の腕を取って言った。




「あたし、凜ちゃんのこと嫌いみたい。」


あまりにあっさりと言われたから、一瞬何を言われたのかよく分からなかった。

薺さんは笑顔を浮かべたまま更に言う。



「だから凜ちゃんは、あたしのこと、思いっきり妬んでいいわよ。

ふふ。ね、琥珀、早く行きましょう・・・・・・。」



琥珀様の腕を引っ張り、薺さんは軽やかに奥の方へと歩いて行く。


琥珀様は、なすがままにされながらも、あたしを見た。





―――ドクッ・・・・・・


絡んだ視線に、心臓が音を立てる。




琥珀様が、口を開いた。


「生贄、なぜ泣きそうな顔をしているのだ?」



絶対零度の声。


琥珀様・・・分からないんですか?

そんなことさえも、分からないんですか?


好きだからですよ?

あなたのことが、好きだからなんですよ?



くしゃりと、自分の顔が歪むのを感じた。





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