愛を知らないあなたに
リョクも忘れてはいないのだろう。

ぎゅっと握られた着物を見ながらそう思った。


たぶんきっと誰も忘れはしない。

あの日のことを。


あの術者と――新太郎、という名の男を。






「呪い・・・?」


生贄が俺を見て呟いた。

眉間にしわが寄っている。



「それって、確か術者がかける術(ジュツ)の一つでしたよね?
災いをもたらすとか不幸を招くとかいう・・・。

りょっちゃん、そんなものかけられてるんですか?!」


信じられない、というように。

眉をつりあげて、生贄は本気で怒っているようだった。




俺は思わず、首を傾げる。


「そうだが・・・」


「なっ!!!一体どこの術者がそんなことっ!」


「・・・なぜ、生贄が怒るのだ?」


「へ?」



ぽかん、と生贄が口を開ける。


「なぜって・・・え?」


「呪いを受けたのはリョクだ。それなのになぜ生贄が怒る?

リョクは妖怪だというのに。」





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