愛を知らないあなたに
身体が勝手に動く。



気がついたら、リンを抱きしめていた。




『あのね。生きているモノには名前がなくてはいけないの。』





「へっ」


「・・・そうだな。」



呟く。

冷たい背中に手を回した。




『そのモノが、そのモノ自身である為に。』




力を入れすぎたら壊れてしまいそうな、細い身体。

壊したくないと、思った。


なくなったら嫌だと、理屈じゃなく、思った。




『自らを、見失わない為に。』






そう、思うのは――





『この世にたった一つしかないモノだという印に。』





この世にたった一人しか存在しない、リンという名前の人間だからだ。





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