愛を知らないあなたに
《しかし、やはり怖いもの知らずだな。

鬼だというものを睨むなど、前代未聞だ。》




狐の言葉に、今度はあたしはすぐに反応した。



「あれは、あたしの性格で・・・」


《性格?やはり怖いもの知らずだな。

鬼の前で、己の性格がそのままだせる人間など、そうそういない。》


「え?そうなんですか?」



性格って、つるっと出ちゃうものじゃないの?



《そうだ。

恐ろしさで出せなくなる。分からぬか?


恐怖で声を発するさえ難しいものが五万といるぞ。


だから言った。

おぬしは怖いもの知らずだと。


おぬは、鬼を・・・怖がっていないのだろう?》



諭すような、落ち着いていて穏やかな声。


あたしは、ふと昨夜のことを思い出した。




温かな鬼様。

抱きしめられて安心したあたし。



あたしは鬼様を、怖がっていない?



「・・・・・・・・・そうかも、しれません。

そこまで怯えては、いないのかも・・・。」




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