愛を知らないあなたに
怯えも怖れも隠し。

決意した瞳で俺を見つめた生贄など、いなかった。




俺は、ふいっと顔を背けた。


そして、立ち上がり、生贄に背を向けて奥へと歩き出す。



見ていられなかった。


彼女は、真っ直ぐすぎる。





「・・・・・・鬼様・・・?

あたしを、食べないのですか?」


困惑したような声に、振り返らずに答えた。



「今は腹が減っていない。」





嘘だ。


最近はほとんど何も口にしてはいなかった。



だが、なぜか口からそんな言葉が滑り出た。




食いたくない。


なぜだかそう思った。



それはこの生贄が―――不味そうだからか?





分からぬ。

分からぬが・・・・・・



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