好きな人のお母様に恋心がバレました
しかしその女の人は何事も無かったかのようによいしょ、と立ち上がって
顔を上げると、少しだけ困ったようにニコリと微笑んだ。
40代半ばにも見えるその女性は綺麗に髪を切りそろえた、まるで婦人誌のモデルのような洗練された佇まいで、同じ女性だというのになんだか緊張してしまう。
「大丈夫よ。ストッキングも伝線してないし、大したことないわ」
「いえ、でもちゃんと前を見てなかった私の不注意です……。
本当にすみません……!」
こんなに綺麗な人を転ばせるなんて私のバカ!と
ペコペコと平謝りしていると、その人はクスクスと笑った。
「それを言ったら私だって前をちゃんと見ていなかったんだもの。おあいこだわ」
「いえ、でも…」
「でもは無しよ。
あ、じゃあぶつかったよしみで道を教えて貰えると嬉しいわ。
ええっと……三波商事の本社ビルってどこにあるのか分かるかしら?」
その言葉に首をかしげる。
「え?それでしたらこの目の前のビルですよ?」
三波商事とは何を隠そう私の勤めてる会社だった。