好きな人のお母様に恋心がバレました
「あ、あら?じゃあもう着いてたのね!私ったら…」
もし良かったらロビーまでご案内しますよ、と言うとその女の人は嬉しそうに頷いた。
「ごめんなさいね、いま帰るとこだったでしょう」
「いえいえ、帰ってもすることないですし。
むしろうちの会社のお客様なら喜んでお送りします」
悲しいかな、彼氏もいないから
会社から帰っても一人寂しくご飯を食べながら録画した月9ドラマを見るだけだ。
月9は駄目だ。
面白くても、一人だとたまにめちゃくちゃ虚しくなる。
「にしても方向音痴は治らないわね、旦那にもよく呆れられるのよ。
今日はなんとか着いたみたいだけど、
周りをキョロキョロしてたら貴女にぶつかってしまったし……」
二人で歩き出すと、彼女はそう言って溜め息をついた。
「私もつい考え事をしてたらぶつかってしまいました」
すみません、と笑うと彼女は目を丸くする。
「考え事って、お仕事の悩みとか?
今の時期だと忙しそうだものね」
「え、えっと……」
なんて答えようか逡巡するも、どうせもう二度と会わない人だと思って、ぺろりと口が滑ってしまう。