好きな人のお母様に恋心がバレました


周りの客がチラチラとこちらを伺う視線に耐えられなくなったところで、私はメソメソとべそをかく早百合さんの肩をそっと揺する。



「さ、早百合さん。
大丈夫ですよ、朝霞先輩は素敵な人ですし、きっと今までもお付き合いされたことはあるかもしれないじゃないですか。
きっとこれからもすぐに彼女さんができますよ」



………私は知っている。
朝霞先輩が童貞だということを。



………私は知っている。
朝霞先輩が女性社員との私的な会話がほぼ皆無だということを。



よって朝霞先輩が誰かとお付き合いした経験も、すぐに彼女ができる確証も全くもって無い。



「そんなに思い悩まなくても大丈夫デスヨ」



そう言った私の声は、酷く無味乾燥だったであろう。
しかし嘘がつけないのは性分である。



するとキッと早百合さんは私を見据える。



「甘い……っ、甘いわ、依ちゃん……!!!
そう、まるでこの角砂糖のようにあなたは甘い!!!」



いつの間にか名前にちゃん付けになっていることにも突っ込めず、
ただ私は、ビシッと指差された白い角砂糖を見つめることしか出来ない。



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