好きな人のお母様に恋心がバレました


「三時半ですね。
中途半端な時間ですし、帰ろうかな」



「そう?
じゃあ、駅まで送るよ」



「えっ、そんな。
悪いですよ。ここで大丈夫です」



「いいよ。俺はこの近所に住んでるから歩いて帰れるし…。
それに、帰ってもやることあるわけじゃないしさ」



そこまで言われると、じゃあ、もう少し一緒にいても良いのかな、なんて考えて嬉しくなる。



「じゃあ、お言葉に甘えて…」



「うん。
えっと、駅はこっちだよ。おいで」



そう言って、ぽん、と背中を叩かれて
その温もりにふわっと胸が躍った。



先輩の後ろについて行きながら、さっきふと思ったことが蘇る。



「そういえば、今日は香水つけてないんですね」



「ん?ああ、うん。よく気付いたね」



そして彼は、悪戯っぽく笑う。



「オフの時はつけないよ。
あれは会社への俺なりの武装だからさ」



「女子で言う所の化粧みたいな感じですか」



「そうなのかな。
自分に自信がないことの表れ、なのかもね。
香水つけて、自分はデキる!って毎日思い込んで出社するのが、新入時代からの毎朝の儀式みたいになってる」



(あ……)



先輩は、仕事がデキるひとだ。
実際にそれは事実なんだけど、勝手にそれは先輩の天性の才能か何かだと思っていた。



でも、違うのかもしれない。
先輩にも私みたいに新米だった時があって、きっと悩んで、失敗していた頃があるんだ。



今さらそんな当たり前のことに気付く。
そして今もまだその儀式が続いているということは、先輩は自分の仕事に決して満足しているわけではないんだ。


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