好きな人のお母様に恋心がバレました
「朝霞さぁーん、この資料なんですけどぉ」
鼻にかかる、猫のような甘えた声。
くねくねとした、お前は軟体動物か何かかとでもツッコミたくなる腰の動き。
まっピンクのプルップルの唇から覗く蛇のような赤い舌。
バサバサと孔雀が羽を動かしているかの如き付けまつげ。
入れられた淡い色のカラコンは獲物に標準を合わせたかのように瞳孔が開いて見える。
この、あらゆる動物をハイブリッドさせたかのような新種の生物に私はカッと目を見開いた。
「誰じゃお前はああああああ」
コピー機をすごい勢いで稼働させながら叫んでいる私に、周りの人は誰も目を合わせてくれようとしなかった。
直属の上司である部長も私を見た瞬間サッと目を逸らす。
しかし私はそんな事はどうだって良かった。
いま、一番大事なことは、数メートル先で朝霞先輩の肩に手を触れながら指導を請うあの女だった。
「誰じゃ……って、さっき紹介されたばかりでしょ。
この前辞めた新人の穴を埋めるために急遽入った派遣の栄兵美麗(えひょうみれい)さん。
7月から入るって先週も部長、話してたろう」
そんな私にも怖気付くことなく飄々と話しかけてきたのは、朝霞先輩と同期の塩谷さんだ。
整った容姿なのに低身長という、そのアンバランスさが度々ネタになる人である。