好きな人のお母様に恋心がバレました
幸い周りに人が少ない席だったものの
遠巻きに視線を感じて私たちは我に返って席に座りなおす。
「……で?
子ブタちゃんは朝霞さんが私に食べられるのに反対なの?」
「当たり前です!先輩みたいな清く正しく優しい人が、そんな昼ドラどころか深夜枠有料チャンネルみたいな展開に巻き込まれるのには断固反対です!」
ブーブーと抗議の手を挙げると、女豹はハッと鼻で笑った。
「……子ブタちゃん、エッチしたことないでしょ」
「そっ……それが、なにか」
いきなり何を言うんだろう、と女豹を睨むと彼女はまたラムネをボリボリ噛み砕いた。
「清く正しく、なんて。
性欲に於いてそんな男いるわけないじゃない」
「……まあ、それは一理あるな」
須藤先輩が隣で同意して、女豹もそうでしょう?と唇に弧を描く。
「もし子ブタちゃんが朝霞さんに対してそんな理想を抱いてるなら、そんな考えは捨てちゃいなさいな。
その凝り固まった未経験女の考えが、男を傷つけることだってある。
朝霞さんだってね、あんな無欲そうな顔してても夜は己の欲望に忠実なものよ。
さらに未経験の男の方がその持て余した身体をさっさと捨てられる女を選ぶ」
「そ……れは、宣戦布告、ですか」
「そうでもあり、忠告でもある……かしら。
あんまり綺麗な幻想を抱くと、朝霞さんにも失礼よってこと」
そして女豹は席を立った。
「子ブタちゃんは何に恋してるのかしらね?
優しくてお綺麗な朝霞さんっていうなら、あたし、貰っちゃうわよ」
「どういうことですか…?」
「それが分かんないうちなら、あたしも安泰ね〜。
じゃ、あたしは先に戻るから。もう案内は結構よ」
じゃあね〜、と投げキッスまでご丁寧に寄越した女豹を須藤先輩と一緒に見送って。
須藤先輩となんともなしに顔を見合わせると、彼女は頬杖を付いて優しく私を見つめる。
「ま、お前がなんで朝霞君を好きなのか、考える良いきっかけなんじゃないか?
そういえば私もまだ、お前があいつのどこを好きなのか聞いたことないしな」
そう言って須藤先輩は
にしし、と歯を見せて笑った。