好きな人のお母様に恋心がバレました
『い、一体なにがあったんですか?』
さっき恥ずかしい妄想をしてしまった自分に頭の中で蹴りを入れる。
問うと先輩は疲れ切った顔のまま縋るように私を見つめる。
『このままじゃ俺の貞操がーーじゃ、なくて、精神的にもう無理…』
普段、弱音どころかどんな仕事も文句ひとつなくこなす先輩が、いまや見る影もなく弱り切っている。
逆にここまで弱らせるって女豹は一体何をしたのだ。
『せ、先輩、大丈夫ですよ。少し落ち着きましょう』
そう言って背中をトントンとあやすように叩く。
『……宮戸さんは、大丈夫なんだよなあ』
『何がですか?』
『ううん、こっちの話』
その後、私じゃ指導係としては役不足ということで塩谷さんに頼み込みに行くも、結局じゃんけんで朝霞先輩が引き続き面倒を見ることになっていた。あの時のガックリとした姿は20代とは思えない程に哀愁が漂っていた。
「……なんとかしてあげたいんですけど、こればっかりはなあっていう問題がありまして」
ため息混じりに言うと、
早百合さんはくりくりとした瞳を不思議そうに瞬かせる。
「あら、どんな問題なの?」
「ええっとーー」
そうして女豹がやって来てからのことを大雑把に話した。
さすがに彼女が朝霞先輩を自分に従順な僕(意味深)にしたいらしいことは伏せておく。