好きな人のお母様に恋心がバレました
早百合さんと別れた後エレベーターに乗り込む。
一緒に乗り合わせた男性社員の視線がいつもとは少し違うような気がして私は少しだけ首をかしげる。
そんなにまじまじと見つめられる理由が分からない。
自分のフロアに着いて、私はさっき早百合さんに言われたことに気をつけて一歩踏み出した。
『女性ってね、本当にちょっとした仕草で全然違うのよ。ほら、見てて、こう歩くのーー』
そんな風に早百合さんは少しだけ私に魔法をくれた。
カツカツと鳴るヒールの音は、歩くたび毎日自分自身で聞いているはずなのにいつもより軽やかに耳に届く。
しゃんと胸を張って歩いていると、すれ違いざまに目があった部長は口をあんぐり開けたまま書類をバサバサと落としていた。
人の顔を見てそんな反応をするとは失礼な上司である。
すると目の前に今度は塩谷さんが通りかかる。
「あ、いたいた宮戸、お前この書類の下書きなんだがーーって、え?」
目があった瞬間に全く部長と同じ反応をされて私はピタリと立ち止まる。
「失礼ですよ!塩谷さんも部長もなんだっていうんですか!
さては私があんまり美人になったから惚れちゃったんでしょう!」
このこの〜と肘で小突くと、塩谷さんはめちゃくちゃバツが悪そうな顔をする。
「いや、その冗談笑えないわ……。
お前意外と化粧映えする顔だったんだな。いくら金かけたか知らんが冗談は顔だけにしとけよ」
そうしてボリボリと頭を掻きながら立ち去る塩谷さん。
「あれ?私に用があったんじゃないんですか?」
おーい!と呼びかけると塩谷さんは慌ててこちらに戻ってくる。
そうしてチッと舌打ちして
「調子狂うわ」と呟いて、私と目を合わせてくれなかった。