好きな人のお母様に恋心がバレました


うちの会社の近所には小さな商店街があって、そこの中央公園の時計台が5時になると鐘を鳴らす。
その音が遠くに聞こえてくると、なんとなく帰り支度を始めても良いという空気になる。



今日も今日とてその音を誰よりも早く耳に捉えた私は、5時になった瞬間にパソコンを落とした。



「お疲れ様でしたー!
幹事なんで先に飲み屋の方行ってますねー」



そう言って意気揚々と席を立った。
エレベーターの下のボタンを押すが、3階に止まっていたエレベーターがなかなか上ってこない。



誰か乗ってるのかな、と思いつつも
スケジュール帳を確認しつつ 、視線は下に落とした。



(ええっと、飲み会は6時からでオーケーだよね……)



予定を確認しているとポン、と軽快な音と共に開く扉。
そこから降りてきた2人分の足元が見えたのでそれと入れ替わるようにエレベーターに足を踏み入れた。



けれどすれ違ったその瞬間に、



「……え、待って、宮戸さん……!?」



そんな、焦った声が聞こえたものだから声につられて顔を上げた。
するとそこには目を見開いてポカンとした女豹と朝霞先輩。



なぜそんな顔をしているのだろう、と逡巡してから、自分の顔が大層違っているだろうことを思い出す。



そして、誰よりも一番に彼に見て欲しかったのだと、そんな言葉が胸に浮かんだ。


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