好きな人のお母様に恋心がバレました
痛いくらいの沈黙は、やっとこさ破られて
「……これは俺の個人的なお願いだから聞かなくてもいいけど」
視線を一度私から外して、彼はぽつりと呟く。
「メイク、落としてきて欲しい」
再びピタリと視線を合わせて、
彼は私にそんな残酷な台詞を言ってのけた。
「…………へ?」
一瞬、何を言われたか分からなかった。
だって、先輩がそんなことを言う理由が全くもって分からなかったからだ。
「に、似合ってない……ですか?」
聞きながらも、似合ってないはずはないと思った。
だってあんなにみんなに褒められたのだし、自分で鏡を見てもにやけてしまうくらいだし。
ーー何か理由があるはずだ。
すると彼は少しだけ逡巡したように目を泳がせる。
バツの悪そうなその顔は、初めて見る朝霞先輩の表情だった。
「……似合ってない、と思う」
少し経って言われた言葉に、私は言葉を失った。
すると固まった私の顔を見て、先輩はハッとしたようだった。
「違うよ、違う。俺が言いたいのは、そうじゃ、ないんだけど……。
……ごめん、何でもない。ーー忘れて」
ーー泣きそうになった。
誰に似合ってると言われようが、この人に可愛いと思ってもらえないなら、何の意味もない。
「あ、あははははは、でっ、ですよねー!
似合ってないんです!分かってました!!!冗談はほんと顔だけにしなきゃですね私!すみませんでしたっ!!
じゃあ私幹事なのでっ!先に飲み会会場行ってますね!」
ただひたすらに、今この場にいるのが辛かった。
ともすれば泣いてしまいそうな自分を見せたくなんてなかった。
だから、「開」のボタンをドドドドと連打して、
お先しまーす!と元気よく先輩の脇をすり抜けた。