好きな人のお母様に恋心がバレました
「お前な、頭で考えすぎ」
コツンとおでこを弾かれて、イテッと反射的に声が出る。
「すぐ頭で考えてグルグル暴走するのお前の悪いクセだぞ。
これだから偏差値高い大学のやつは……」
「スミマセン頭が良くて……」
「なんか腹たつなお前」
そう言ってクスッと須藤先輩は笑う。
その綺麗な顔を私は見つめる。先輩がこれから、大事なことを言う気がしたのだ。
「そもそも、誰かを好きかどうかなんて
本人がいない場所でいくら考えたってどうしようもないだろう。
恋ってのはな、きっと理屈じゃない。
好きな奴を目の前するだけでギュッと心臓が掴まれたようになって、話したくて触れたくて、笑って欲しくて、堪らなくなる」
そう語る先輩は、ここには居ない誰かを想っているようだった。
その優しい顔は今まで見た須藤先輩の中で一番可愛らしい気がする。
「もし宮戸が、朝霞くんを好きじゃなかったといま納得して、次に会った時に何の感情も湧かなかったんなら、そりゃ恋じゃないよ。よかったな、さっさと次行こうぜ。
……でもさ、もし次に朝霞くんに会った時にーー」
ガラガラ、と店の扉が開く。
数人とともに入ってくる、……彼は。
「自分でも制御できない感情が湧くんだったら、それはもう……って、分かりやすいな、宮戸」
ぶは、と吹き出された須藤先輩の笑い声も耳に入ってこないくらい。
ーー私はひたすらに朝霞先輩を見つめていた。
「汚さも醜さも、もしかしたら冷たくて意地の悪い部分も、朝霞くんなんだろ。
ーー見て来な、宮戸。
案外、汚い部分にしかない愛おしさの方が、多かったりするんだから」
そう言って背中を押されて、私は一歩前につまずいた。