君の1ページ
時は戻って、文化祭前
文化祭を2週間後に控えた文芸部の部室には、少しだけ緊張感があった。文化祭当日に部誌を発行するので、その締め切りが迫っているからだ。
「1年、調子どう?」
4月に入部したばかりの私達1年生にとっては、はじめて自分の作品を書く機会だ。部長である野村先輩が、進度を確認してくる。
私以外の2人が順調だと述べ、私も続いて「順調です」と告げた。
ずっと入りたいと思っていた文芸部で、はじめて自分の作品を書くのは、緊張もするけど楽しい。
私が書いているのは恋愛ストーリーで、内容は実は実体験があったりする。
女の子が先輩に恋をするけど、なかなかうまくいかない。相手の先輩の卒業式に告白をするけどふられてしまう。そして、その一年後に先輩を追いかけ同じ高校に入学して…と続いていく予定だ。
書くのは後2ページ分くらいだ。締め切りまでには、余裕で終わらせられるだろう。
「そろそろ終わるかー」
野村部長が部員に合図を出す。
執筆に夢中になっていたからか、あっという間に部活動終了時間で、下校時刻になっていた。
「次の活動は、明後日。その間に各自作品を進めておいて。」
はーい、と7人の声が揃う。
「じゃあ、各自解散!」
その合図で、皆わらわらと部室を出る。私も仲のいい1年生2人と部室を後にした。
「菊池は、どんなの書いてるんだ?」
1年生唯一の男子部員である、大原孝太郎が尋ねてくる。
「恋愛物。そういう大原は?」
「俺は、当然ミステリー」
そう言えば大原は大の推理小説好きだ。読むだけでなく、自分でもきちんと筋の通ったミステリーが書けるからすごい。
「恵梨香は?」
私は1年生のもう一人の女子である、小笠原恵梨香に尋ねた。
「ファンタジーっていうか、SF?」
恵梨香は大人しい性格とは違い、読書の趣味は意外とアクロバットなものが多い。今回の作品も自分の世界観を表現しているんだろう。
それに比べて私は…。
ただ単に実体験を書き連ねている自分が、少しだけ恥ずかしくなる。
しかも、私の作品にはちょっとした下心が含まれている。