西瓜怪談
ある日の会社帰り、懐に少し余裕があったというのもあって、あの青果店に寄ってみることにした。
しっかり見たのは初めてだが、なかなかにボロい。
経営的な意味だけでなく、物理的な意味でも潰れそうな雰囲気だ。
まぁ、ここまで来てのこのこ帰るつもりはないが。
手動式のドアを押して中に入れば、中は意外に小綺麗ーーなんてことはなく変わらずボロいが、品揃えは豊富なようだった。
その中でも、あるものに目がとまる。
「西瓜かぁ」
子供の頃は祖父母の家でよく食べていたが、大人になってからは数えるほどだ。子供が産まれてからは、一度もないな。
「おや。それが気にいったのかい?」
店の奥から恰幅の良いおじさんが出てきて、今見ていた西瓜を指さす。
「ええ。でも、季節外れじゃありません?」
「店の裏に畑があってね、そこで収穫したもんなんだ。ついこの間採ったばかりで、新鮮だよ」
そう言って、西瓜を手に乗せられる。
ずしっとした重みとまるい形。
中身はしっかり詰まっていそうだ。
「そういや、兄ちゃんスーツ姿だが、仕事帰りかい?会社は?」