ダメ男依存症候群 EXTRA
「……奈津美?」
彼の声が後ろから聞こえたのは、少し経ってからだった。
あたしは、ゆっくりと振り返った。
彼は、腰にバスタオルを巻いた状態でそこに立っていた。
「どうしたんだよ……」
彼の視線があたしからあたしの手元にいき、その瞬間その目が大きく見開かれた。
「まさか……見」
「どういうことよ」
あたしは彼の言葉を遮った。
「どうって……何勝手に見てんだよっ!」
彼が声を荒げた。
「見られてヤバイことしてたのはあんたでしょ!」
あたしの声は彼以上に響いた。
それに彼は圧倒されたようだった。
「……結婚してたんでしょ?」
この言葉に、彼の表情が引きつった。
あたしは、携帯を見て、その事実に気付いてしまった。
彼の携帯で、一番最初に見たのは着信履歴とリダイヤルだった。
着信履歴の中でも、リダイヤルの中でも、一番多かったのは、優子の名前だった。
そして、メールも見た。
メールのやりとりも、仕事関係で一番多いのは優子とだった。
あたしとの最近のやり取りは、全て消されていた。
今日、そして、今まであたしと会っていた日には、彼は『残業で遅くなる』というメールを送っていた。
あの時、あたしがご飯の準備をしようとしていた時に携帯を触っていたのは、そのメールを送るためだったんだ。
更に、彼には、子供もいるようだった。
だから結婚してるって気付いた。
メールの中で「優子」にパパと呼ばれてたり、子供の写真を送ってきたりしていた。
最新の優子からのメールは、子供が熱を出したから、出来れば早く帰ってきてほしい、という内容だった。
信じられなかった。許せなかった。
彼は、あたしと居る時は、優しい顔を見せて、甘い言葉を吐いて、あたしを一番に思っていてくれていたと思っていたのに……
あたしと居ない時は、誰かの夫で、誰かの父親だった。
しかも、あたしのことは存在しない世界で、何事もないように生活していた。