ダメ男依存症候群 EXTRA
「やっぱ俺の目に狂いはなかったなー」
旬は満足げに頷いている。
「ええ。本当にとてもよくお似合いですよー。スタイルがいいのが引き立ってて素敵です」
店員も一緒になって褒めてくる。
店員のは、商品を買って欲しいがためのヨイショなのだろうが。
「ナツ、これ買う?」
旬がニコニコして聞いてくる。
その横では店員が目を輝かせている。こっちは買ってくれることを期待してだろう。
もともと買う予定のものではないのだから、何か適当に理由をつけて買わないと言えばいい。
だけど、諦めるには惜しい服。言う理由が思い浮かばない。
今日は予算的に……て言う? でも、別に買えないくらい余裕がないってわけじゃないし。
今日はやめときますって言って、また今度来る? でも、店先にディスプレイしてあるくらいだからすぐになくなるかもしれないし……
今度来るので取っておいてくださいとか……それは流石に恥ずかしいし……
買う買わないで奈津美の中の天秤が激しく揺れる。しかもそれは知らず知らず、今日買うかどうかという問題になっている。
「ナツ?」
「お客様?」
何も言わず固まっている奈津美を見て、旬と店員が不思議そうに見てくる。
プチ――
……と、はっきりとした音こそなかったが、奈津美の中で何かが切れた。
「買います」
多分、天秤の糸でも切れてしまったのではないだろうか。
「ありがとうございます」
店員が今日一番の笑みを浮かべていた。