chu to him

4月に桜が咲き始めた頃…
新入社員が社内を駆け巡って
新しい風が優しく吹いていた｡

新鮮な気持ちになって挨拶をして
私自身の気持ちも改めて正す｡

｢…約束､覚えてくれてますか?｣

相変わらずｷﾗｷﾗした目のまま
私に話しかけてきてくれた彼は
やっぱり眩しい｡

4月に入ってからの業務は多忙で
わざとPCを見つめて作業しながら
答えることにした｡

｢ﾗﾝﾁ､行きましょう…だっけ…?｣

新入社員の彼が私に声をかけて
笑っている姿は､少し自然だった｡

私は､新入社員の相手をしていて
彼には話しかけるひとが居ない
と､判断されているのだろう｡

｢よかった｡今からどうですか?｣

思わずｷｰﾎﾞｰﾄﾞを叩くのをやめて
彼の､ｷﾗｷﾗした目を観てしまった｡

だめだ｡この目を観ると胸が痛む｡

既婚者の上司と毎日ｷｽしているｺﾄ
同期の男性とも…ｷｽをしているｺﾄ
…悪いことしているｺﾄを
全部…見透かされてしまいそうで

罪悪感に駆られてしまう…｡
彼の目をじっと見つめられない｡