嫉妬の威力

「英司くん」

「うるさい!」

「酔ってるの?」

「んな訳あるか!車で来てるのに飲めるかよ」

気づくと駐車場まで来ていて、彼の車が目の前だった。

「そっか…ごめんね運転させちゃって」

ぐいっと助手席に押し込まれた。

「謝るとこ違うだろ!」

バタンッと大きな音でドアを閉められて、
泣きそうになった。

「ごめんなさい」

運転席に座った彼に謝る。

「何が?」

「…… ……」

会社の皆にバラすことになってしまってって
言おうとしたけど、意地悪な言い方をされて涙ぐんでしまった。

「俺より加藤さんのが良くなった?」

「違う!」

「じゃあ何?今日は最初から加藤さん狙いだ
 ったとか?」

「どうしてそんな事言うの?!」

どうして私ばかりが責められてるの?

段々悔しくなってイヤイヤと首を振った。

「ハッキリ言えよ!」

「英司くんだって亜稀ちゃんと楽しそうだっ
 たじゃない!」

「は?」

予想外の答えだったのか、彼は驚いて瞳を丸くした。

「亜稀ちゃん可愛いし、本当は私なんかより
 ああいう元気な子が好きなんでしょう?
 あの子だとオープンにできるみたいだし」

ドアを開けて飛び出そうとすると、腕を引かれて戻される。

「離して!」

堪えていた涙が堰を切ったように溢れだした。

「果乃っ……」

言葉を失って彼がはっと息を飲んだ。

「別に無理して私と付き合ってくれなくても
 もういいから!」

彼の顔が辛そうに歪んだ。

「……俺は果乃がいい」

見つめる瞳に嘘はないと確信できる。

「英司くんっ」

腕に飛び込むとぎゅっと強く抱き締められて、
頭に深い安堵のため息と共に唇が落とされた。


「心配させてごめん。彼女とは何もないから
 信用してくれ」

腕の中でうなずくと無理矢理顔をあげさせられる。

「頼むからもう泣かないでくれよ」

「うん」

「果乃の涙すげー威力。俺、生まれて初めて
 心臓抉(えぐ)られたよ」

瞬きで涙を払って小さく笑うと、優しく唇が重ねられた。


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