通勤電車に咲く花は
その日の電車はいつも以上に混んでいた。先行電車で車両故障があり、遅れていたせいかもしれない。
あたしはいつものように音楽を聞きながらうつらうつらしていたのだけれど、頭にカサカサあたる何かに起こされた。軽くムッとしながら顔をあげると、ドアそばに立って辛そうな顔をした大学生らしき女の子の髪の毛が頭に当たっていたと気付く。
「あの、よかったらここ、座って?」
考えるより先にその子に声を掛けて立ち上がった。
「何だよ。俺があんたの前に座ってるんだから、俺が座っていいだろ?」
ムッとした声で私の前に立っていたハゲ親父が文句を垂れてきた。
あんた、貧血の辛さ知らないのか?
気持ち悪くて、ふらふらして、本当に辛いんだぞ。
ついでに、あまりに辛くてついしゃがんじゃった時、周りの人達に無視されたりすると、精神的にも辛くなる。
バカハゲ親父に教育的指導をしようと口をあけたその時、
「彼女、とても辛そうですよ。倒れたりしたら大変だし、ここは彼女に譲ったほうが後味も悪くないんじゃないですかね。」
横から声がした。
おや?
新聞男だ。
新聞男が口を挟んできやがった。
ほう。
お前、意外といい奴だな。
いや、どんな奴かなんて、これっぽちも知らないけどな。
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