不条理な恋でも…【完】
どきどき…(大希)
目の前についたTV。

それでも俺自身は全くその映像も音声も、頭の中には入ってこなかった。

腰から俺のスーツを掛けたほのかが

静かに規則的な息をしながら傍らに横たわる。

眠る姿なんて見慣れてしまった光景のはずなのに、

それでも今夜は特別な夜なんだと思うと胸が高鳴った。


どきどきする鼓動に、自分にもこういう感情が残っていることを改めて知る。

そう、ほのかを思う気持ちはただ純粋で愛おしいというだけだった。


君はもう近藤穂香ではなく、佐々木穂香になった。

俺の妻になり、俺はほのかの夫になることができた。

お互いがお互いに対して社会的にも責任が生する…

その事実は今までの二人の関係においては、大きな変化だ。


病院に連れて行っても、銀行に行っても、色々な手続きを変わってしても、

苗字も住民票の住所も違う君と俺は、どこまでいっても所詮他人だった。

だからできることに、与えられることに、踏み込めることに限界があった。

それでも俺はほのかに俺のできることを、与えられるもの全てを与え続けた。

それが、いつかほのかから何かが還ってくることをただただ信じて…

俺は結局見返りを求めていた。

愛情という触れることのできない見返りを…

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