不条理な恋でも…【完】
それから大希さんは唇を離して、瞼や、眉のラインや、顎、口元…

そして耳たぶにキスを落した。

触れる部分が熱を帯び、それが点在して、躰に優しい火を灯していく。


優しいキスの雨がいつまで続くのだろうかと思いながら

ふわふわとした気持ちで目を閉じたまま気持ちよさに漂っていると

そっと舌が唇に触れた。

そして、ゆっくりとゆっくりその輪郭を丁寧になぞられる。


今まで、私は大希さんにこういうことをされたことがなかった。

彼は、信じられないくらい紳士的で、

私をなだめるとき以外ほとんど触れることはなかった。

恋人になってからでさえ、強引に躰を求められることはなかった。

30歳を超えた大人の私たちなのに、

子ども恋愛ごっこのように穏やかな恋だった。


それは…

おそらく…

あの事件以来私が男性恐怖症だったことに

気使ってのことなのだろうと思う。


実際怖くないかどうかなんてわからない…

それは、私が試したことがないから…

遠い昔のことだけど、それをすることができるのはわかってはいるが…

結局のところそうなるまで、できるかどうかは、

私自身も含めてわからない。
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