不条理な恋でも…【完】
私は、頭を一度だけ大きく縦に振った。

目の前の不安げだった大希さんの口角が上がり、零れるような笑みを浮かべ

「ありがとう…」

優しく抱きしめられた。そのまま突然体がふわっと浮き上がったかと思うと、

大希さんに抱き上げられていた。

甘い瞳を向けられてしばらく無言のまま見つめ合ってから

「気の変わらないうちに、俺のこの想い全部受け止めて…」

耳元で囁かれ、そのままベッドルームに向かって大股で歩き始めた。


二人にとってはこれから素晴らしいひと時が訪れるはずなのに、

ふと眞人の切ない笑顔がよぎって胸はちりちりと痛む。


こんな時に不謹慎すぎる…

それでも初めての時を全て忘れ去っているわけではない私は、

どうしても比べてしまう。

初めての時から、眞人の為に守ってきた。

私にとってこの壁を越えることは

相当の勇気を要する行為だった…

それは眞人の存在を否定すること。

その恋を完全に諦める事は、

私の生きてきた人生そのものを否定することだから…

大希さんは忘れなくてもいいと言ったかもしれないけど…

それじゃあんまりだ。


ちりちりと痛むこの心は、眞人を想ってなのか…

大希さんを想ってなのか…

私にはわからなかった。
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