不条理な恋でも…【完】
ほのかは少し前まで俺の家にいた。

上司にセクハラまがいで脅され、俺の家に飛び込んできたから

人が怖くなり外に出られなくなった。

落ち着くまでは、俺もしばらくカノジョをそばで見守っていた。


それからひと段落した時、

俺は嫌がるほのかを引きずって心療内科に付き添って行った。

服薬をはじめ、波を打ちながら徐々に徐々に

薄皮をはぐように自分の日常を取り戻していった。

奇妙な同居生活が始まってもう少しで1年かという頃…

ある日突然、ほのかが自分の家に戻ると言い始めた。


俺にしてみればそのままここに住んで、

このまま段々と俺たちの仲が深まっていき、既成事実として

そのまま籍を入れてしまえばいいと思っていた矢先だった。


ほのかは頑固だ。一度こうすると決めたら、やり通してしまう…

ここで、一度その手を離さなければ…

納得しないと思った。

そして俺はほのかとの絆を信じ、

俺自身の変わらない気持ちを信じて…

その手を離した。


最初戸惑っていたが、ゆっくりと手を伸ばして花束は受け取ってくれた。

でもほのかの顔に…

無邪気な微笑みはなかった。

少し口角が上がってはいるものの唇を噛みしめ悲しい瞳をしていた。

『まだ…』

それから俺たちは何も言わないままその場に立ち尽くし見つめ合う…
< 6 / 65 >

この作品をシェア

pagetop