青春を取り戻せ!
スティング
ケミカル アイ
「ウワッ!?」
「犬だ!? 犬が入って来たぞ!」
静寂に包まれていた図書館に、大声が……。
医学書を開いたまま自分の悲惨な過去にタイムスリップしていた僕は、その声によって現在に戻された。
まわりの視線を辿ると、入口に白い中型犬をみとめた。
犬と目が合った。
彼がニコッと笑った気がした。
次には尻尾を力強く振り、真っ直ぐ僕に向かって来た。
僕は驚喜した。
行方不明になっていた“ボン”が、ひょっこりと現れたのだ。
思わず立ち上がり、両手を広げた。
しかしボンは、手前の席の男の子(小学3、4年生ぐらい)の前で止まり、その子の膝に前足を乗せ、顎(あご)を舐めはじめた。
「やめろよ!若大将!」
と、その少年は迷惑そうに言うと、犬の顎を突っ張った。
犬は一瞬あらぬ方向を向いたが、すぐに体勢を立て直してまた舐めはじめた。
ボンだと思った犬は、同じ紀州犬で、生きていれば同じ位の大きさだと思われたが、残念ながら薄茶色の毛をしていた。
入口から差し込む光が彼を包み込み、一瞬白く見えてしまったのだろう。
眼鏡の女性がバタバタとスリッパを鳴らしながら走って来た。