青春を取り戻せ!
ディス ワールド
空気は甘く、太陽は直視できないほどまぶしかった。
僕はおとなしく刑期をまっとうし、舞い散る桜の下にいた。
同じく減刑を受けた柳沢が一緒に出所していた。
彼は白の上下とサングラスに光と影を強烈に反映させ、高い塀の前でうまそうに煙草をくゆらしている。
唐突に彼は右手を上げた。
黒のセドリックがゆっくり寄って来た。中から、黒いタイト・スカートをはいた、足のモデルのできそうな女が現れた。
二人ははばかることなく抱き合った。
そのあと女は感激を細い背中で表現しながら、柳沢を支えるように車に導いた。柳沢は思い出したように振り返った。
「俺がムショでお世話になった板倉さんだ。おまえと違って頭のいい化学者様だぞ。ごあいさつなさい」
女は意外と家庭的な笑顔を浮べると、ペコンと頭を下げた。
その後、彼は再三僕を車で送ると誘ってくれた。しかし、風に当って一人で考えたいことがあるからと、少しキザに断った。
…本当は早く二人だけにしてあげたかったのだ。
僕はのんびり歩き、電車を乗り継ぎ、優紀のもとに向かった。
優紀には出所の日を話しておかなかった。それは、あることを試したかったからだ。
何かと言うと、僕は7年間の心労と、重労働で人相が変わったと思えたからだ。どちらかというとふくよかだった頬はそげ落ち、目は窪み、特に暗い夜に月明かりを頼りに手紙を書いたり読んだりした積重ねが影響したのか、一重だった瞼が二重に変わっていた。