青春を取り戻せ!
人間の印象は特別特質した所がない場合は目によって決まるという。
だから7年の歳月と印象の変わった目は、僕を別の人間に変身させた可能性があると思えた。
もし僕の顔を見て優紀が気付かない場合、白木夫婦の前に姿を現しても安全だという保障が取れるということである。
懐かしい駅に着いた。
そこのトイレに入り、柳沢から貰った髭とメガネを付けた。
駅前は7年前と少しも変わらぬたたずまいを見せてくれた。 ロータリーをはさんだ銀行とケーキ屋は飽きもせず同じ所に同じ姿で座り、街頭募金とビラ配りは相変わらず人々の通行を妨害していた。そして7年前から捨てられたままになっていると思えるような吸殻やビラがいたる所に目につき、昔のままの汚い姿で、僕を心から安心させた。
以前より丸みを帯びた乗用車をよけて、店の上面に大きなアクリル板にフラワーショップと書かれた綺麗な電光板の店に入った。ここは僕の記憶が正しければ、7年前はブリキ板に花屋と退色した赤で書かれていた店だった。
そこで両手一杯のバラを買った。
それを肩に担ぎ、15分位かかる道程をのんびり歩いた。
国道ぞいは別の町のように賑やかに変わっていたが、ボンと散歩をした住宅街は何も変わらず、出所を祝うようにスズメは舞い、新緑の葉は歌うように言葉を投げかけ、連なる石塀にも、“ネバー・エンディング・ストーリー”に出てくる岩の生き物のような柔和な表情が感じられた。
近付くにしたがい鼓動が激しくなった。
……一刻も早く成長した優紀に会いたいという気持ちと、その事への腰の引けるような気後れ、それとある種の恐れが心の中を渦巻いた。