青春を取り戻せ!
ドアがいっぱいに開けられた。 彼女が眩い光に包まれた。
まぶしさのためか、彼女は目を細めている。

数秒間、瞬(まばた)きしていた長いまつげがゆっくりと上がった。
次の瞬間、ハッとするような美しい大きな瞳が現われた。

僕は自分の目を疑った。当時中学生で、痩せっぽちで、いつもどこかに擦傷を作っていた化粧のけの字もなかった少女が、艶っぽいあでやかな大人の女に成長していた。 

目も眩(くら)むような美しい22歳の乙女に変貌していた。

真赤な柔らかそうな唇が、艶を放ちながらゆっくりと開いた。

「おかしいわね。…お花は注文してませんが?」

大きな目が更に大きく膨らんだ。それは曇りのない利発そうな目だった。7年前の印象をはっきりととどめていた。

「えっ、確かに注文を受けました。ええと、桂優紀さんですよね?」

「はい。そうですけど、…何かの間違いだと思います?」

マリン・ブルーのサマー・セーターの豊かに隆起した胸のあたりを、白く長い指がスローモーションのように横に通過した。

「困りましたね。こちらは電話の注文通りにお届けにあがっただけですから」

抜けるように白い額の中央に幾筋かの皺(しわ)が出現し、にわかに瞳が曇りはじめた。

僕はこれ以上困らせるのに哀れを感じた。

つけ髭とメガネを取ると、目一杯の笑顔を浮べた。

「優紀! 僕だよ!!」
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