青春を取り戻せ!
リベンジ
8月12日の朝が来た。
近くのホテルに一泊した僕は、髪に白いメッシュを、目に灰色のコンタクトレンズを入れ、おまけにメガネとつけ髭まで付け、水島高嗣(たかつぐ)助教授に丹念に変装した。
そして、大手製薬の阿木務課長(*実際は詐欺師の柳沢)と共に、大浅間カントリー・クラブに向かった。
自分の正体がばれないか、それに阿木務課長のフリがばれないか、胃の痛くなる思いで戦いに臨んだ。
クラブに着き、受付を済ますと、まず何気ない素振りで白木夫婦を捜した。
すでに二人はカートの前に陣取っていた。キャディーとの話しに夢中になっていた。
ブランド品のウェアーを着込んだ二人は7年前と少しも変わらず、若さ溢れるという印象を受けた。
僕はふつふつと煮えたぎる憎しみと、意外にも抱き締めたくなるような懐かしさという、相反する不思議な感情に襲われた。
コーナーのこちら側に姿を隠すと、白いモルタルの壁に背中を預け、飛び出そうとする心臓が静かになるのを待っていた。
柳沢が僕の左肩に手を乗せると、
「どうしたい。気分でも悪いのか?」
と、心配そうに聞いてきた。
「うぅん。…ちょっと心配に…」
「大丈夫だよ。この名探偵の柳沢にまかせなよ」
彼は落着払っており、その道のプロといって逞(たくま)しさを感じさせた。
「うん。一つだけ注意しとくが、君はすでに柳沢ではなく阿木務だからね」