青春を取り戻せ!
それが放射状に全身を衝き抜けた。

僕は崩れるように膝を着いた。

健康骨と背骨の間に肘を打ち込まれたようだ。

「なにやってんだ? 寝るにはまだ早いぞ」

刑事たちは僕をマリオネットのように吊り上げた。

まるで力が入らなかった。膝から下が自分の物でないような気がした。支えられ、やっと立っていた。

「ほらっ、しっかりしなよ」

若い刑事が言った。

「ぐずぐずするなら、ここで手錠(ワッパ)を掛けてもいいんだぞ」

ハンチングが耳元でドスの効いた声を出した。

「まぁ待ってください」
と、若い刑事がハンチングに言った。そして僕の背中をさすると、
「手錠はいやだよな」
と、ごつい顔に似合わぬ優しい声を出した。「ひとりで歩けるよな」

いまの僕にはその優しい声音が一縷の望みのように思え、心に染みた。

やっとコックリした。

次の瞬間、心の堤防が音を立てて崩壊した。

悔恨が津波のように押し寄せてきた。…たとえ復讐の名をかりたとはいえ、悪いことはできないものだ。人生はうまくできていて、必ずツケはまわってくるようだ。まだまだ安息の地には辿り着けそうもないな…。

「さぁ行くぞ」

ハンチングが前方に肘を引っ張った。僕は口で息をしながら、言われるままにトランクを引き摺った。今はただ重いだけのトランクを………。
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