青春を取り戻せ!

獄中ブルース

僕は外食を済ませて、誰もいない暗く寒いアパートに帰り着いた。

まずしたことは“エリック・クラプトン”のCDをエンドレスにセットした。

次に『ハブ・エバァー・ラブド・ア・ウーマン』の胸に響くリズムに乗せ、ビィーフ・ジャーキーとワイン、沢山の手紙の入った箱をテーブルに用意した。

ロッキング・チェアーの上に数日前から乗せられたままの医薬雑誌を無造作に床に落とすと、腰を沈めた。

そしてそれに揺られながらワインをビンのまま口に運び、手紙の束に目を落とした。

それは全て優紀からの物で、7年間で255通になっていた。
単純に計算すると10日に1通来ていたことになる。

最初に貰った、手垢で所々淡いブルーがセピア色に変わっている便箋を手に取った。


―――― 「嘘!」 これが両親からタツローの話を聞いたあとの私の第一声です。…私には何が何だかわかりません。

学校から帰ると、タツローの家に沢山のパトカーと乗用車、強力なサーチライトが溢れ“S・スピルバーグ監督”の『未知との遭遇』の一場面を思い出したほどです。

本当のことを教えてください。どうしてもタツローが人を殺すなんて信じられません。
不可効力ですよね。これは事故なんだと言ってください。

タツローの一日でも早い帰還を願い、今まで見向きもしなかった神に毎晩お祈りを捧げている私です。出来たらお手紙ください。…お願いします。 ――――

懐かしい文字の一つひとつが、脳細胞の深層に避難した記憶をほじるように、刑務所での苦しく、やるせない時代を鮮明に再現していった。
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