MIHO
「そこでベネチアングラスというものに出会ってね、独特の魅力があって、こういう小さいビーズをたくさん仕入れてきて、小物を作るのに凝ってるんですよ」
男は作業しながら話を続けた。
「美穂さんは、イタリアに行ったことがありますか?」
「ないです。海外旅行ってしたことなくて」
「それはもったいない」
男はペンチのような器具で仕上げの作業をすると、
私の目の前に嬉しそうにストラップを掲げた。
「出来ましたよ」
MIHOと名前が入ったそれは、確かにすごく可愛かったけれど、私は美穂でもなければちはるでもない。
けれどおおげさに喜んでみせた。