MIHO
残すもの
それからその男が再び店にやって来たのは、二ヶ月後のことだった。
私はあいかわらず死んでいない。
男は私を指名してくれたが、時間がないからとショートタイムでの予約だった。
「久しぶりに来て、こんな話をして大変申し訳なく思うのだが、私は死のうと思ってるんです」
男ははにかんだような笑顔で言った。
「リストラされてから女房も子供を連れて出て行ってしまって、この歳で再就職も難しくて…なんだか疲れてしまってね」
それは寂しい笑顔だった。
「それで是非、美穂さんにお願いがあるんです」
男は鞄から茶色い封筒を差し出した。
「これに私の全財産が入っています。たいした額ではありませんが、受け取ってもらえませんか」
私はじっとその封筒を見つめたあと、男に聞いた。
「なぜ私なんですか?」
「他に残す人がいないからです」