MIHO
ふたりの嘘
高橋正則から電話が来たのはそれから二日後のこと。
「連絡が遅れてすみません。仕事が忙しかったもので…美穂さんはお元気でしたか?」
「元気です。正則さん、奥さんはちゃんといらっしゃるじゃないですか」
「いやぁすいません。嘘をつきました」
「それはいいんです。私も嘘をついてました。美穂っていうの本名じゃないんです」
「そうだと思ってましたよ」
「……」
「ちなみにイタリアに行ってベネチアングラスに魅せられたのは嘘じゃありません。
死にたいと思った時期があったのも本当です。
私は本当は精神科医なんですよ」
「リストラも嘘なんですね?」
「そうです。私は店であなたを見たときに感じたんですよ。死ぬことを考えている人間には独特のオーラがある」
「……」
「あなたに死んで欲しくなかった。お金は自由に使って下さい」