シャンゼリゼ
慌てて玄関に戻ると、いつも履いている靴はなかった。
「─え、うわ、待てよ落ち着け」
相太の部屋なのに相太がいない。
知らない男の人がなぜかこの部屋から出て来て、鍵もかけずに去って行った。
導き出せる結論は、最悪のものだ。
「空き巣!?」
どうしよう。
泥棒と玄関先ですれ違ったのに、思いっきり見逃すなんて。
「そ、たにで、電話…」
独り言すらまともに言えないくらい口がアワアワ動いている。
震える指で相太に電話をかけた。
(早く出て!)
室内は荒らされた形跡はないけど、もしかしたら金目のものだけ盗られたのかもしれないし。
ああ、相太の次は警察にも電話しないと。
あたし犯人の顔覚えてるっけ。
胸を押さえて携帯を耳に強く当てる。
再びドアの開く音がしたから、はじけるように玄関へ跳んで行った。